戯れに捕まえた、綺麗な青い鳥。
暫く遊んだらすぐに逃がしてやるつもりだった。
けれど、今は―――。














cage















後ろから抱き締められるのは好きだと、彼は言う。
寄りかかれる存在があること。支えてくれる人がいること。それを実 感して、安心出来ると。
後ろから抱き締めるのは嫌いじゃないと、俺も思う。
信頼を示すように力を抜いて身を委ねてくる彼の無防備さを、とても 嬉しく感じる。
だけど時々、伺えない表情が気になることがあるのも事実で。
彼の背中を包み込むように胸に抱いて、俺はそっと問い掛ける。
「顔が見えないと不安にならない?」
「見えないほうが都合が良い時もあるでしょう」
隠しておきたいこと。暴かれたくないこと。
知りたくないこと。知られたくないこと。
なまじ聡い二人だけに、僅かな表情の変化や瞳の揺らめきで、お互い 嫌でも解ってしまうから。
「・・・見たくないの?」
「見せたくないんです」
弱いところも、脆いところも、汚いところも、醜いところも。
他人には見せたくないから。誰にも見せたくないから。
「―――だから、俺を見ないで下さい」
呟いた声はどこか遠くて、思わず、束縛する腕に力が込もる。
「少佐」
「なに?」
「苦しいです」
「だから?」
放してくれ、と彼は言わない。
小さく漏れた吐息が、呆れている所為なのか諦めなのかは解らない。
「ノイマン」
「はい」
「どうして、ここにいるんだ?」
「貴方に呼ばれたからですが」
「そういう意味じゃなくて」
「どういう意味です?」
問い掛ける抑揚の無い声。聞かなくても解っているはずなのに。
「俺が呼ばないと、来ないんだな」
「呼ばれないのに来たら迷惑でしょう」
「どうしてそう思うんだ?」
「・・・貴方が、それを望んでるから」
返されるのはまるで他人事のように冷たい声。
その場しのぎの関係を。いつでも斬り捨てられる存在でいられるよう に、望んでいるのは。
望んでいるのは―――お前のほうだろ?
湧き上がる怒りはチリリと胸を焦がして、切なさへとすりかわる。
彼は、自分からは決して求めない。
こちらから接触しなければ、あっさりと関係は終わる。きっと、責め られることも無いままに。
気楽で良い―――そう、思っていた。最初の頃は。
しかし、縛られないことは同時に縛れないことだと気付いた途端、激 しい焦燥感に襲われた。
『何事にも、何者にも、囚われない』それが、何より重要なことだと 信じていた。それなのに。
自由であることに、俺は怯えた。
伸ばした手を彼は振り払わない。求めれば無条件に与えてくれる。何 も言わず受け入れてくれる。
すべてを許してくれるような従順さに安心しながらも、言いようの無 い不安が募った。
彼はいつでも拒まない。だけどもし、この手を離してしまったら。
その時、俺は―――捨てられるんだ。
「ノイマン」
「はい」
呼びかけに答える声は、いつも同じ。
きっとこの先も、彼は変わらないだろう。
恐らくこの先も、ずっと変わらない―――変えられない関係のまま。

どうか、お願いだから。
俺の傍から、離れないでくれ。

口に出せない切なる願いが、愛しさを歪ませて。
「・・・悪いけど、今日は優しくできないよ」
脅すように低く囁き、小さな背中をきつく抱き締めた。













腕の中で震える、青い鳥。

どこか遠くへ逃げてしまわぬように。

その美しい羽根を切り裂いてしまえたら、いいのに。











<完>




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「群青のれいぞうこ」の群青子様より 頂きました!
このSSが届いた時、ういろーはもうPCの前で喜びと感動のあまり卒倒しかけましたよ!!
な、な、な、ななななぁぁぁぁぁんて素敵なフラノイなんだぁぁぁぁぁ
v(≧∇≦)v
もうね、最初は戯れだったのにいつの間にやら深 みにハマっていくムゥがめちゃくちゃ理想で、
それに対しいつまでもそっけなく冷たいのに、どこか哀愁漂うノイノイが超好みなんですけど!
こんなにも美しく切なく哀しいカップリングはありませんよね、なかなか。
しかしそれをここまで的確に文章にできる群青子様の実力には感服致しますvV
もう何を言ってもお礼を言い尽くせない程に感謝しております!!
本当に、本当に、ほんとぉぉぉぉぉぉぉぉに、ありがとうございました!!!


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